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『タネからのメッセージ-5』~F1品種のつくり方

◇「除雄~じょゆう」
  雌雄同体の植物にとって多くの品種は自家受粉(自分の雄しべの花粉で雌しべが受粉)によって種を作っていきます。F1品種は一代雑種ですから、自分の花粉を自分でつけては雑種にならない 品種を改良することができないので必要となるのが最も原始的な「除雄」という花が未熟なツボミのうちに、オシベをすべて取り除く技術が生み出されました。オシベを取り除いておいて、裸になったメシベが成熟した時、都合の良い「優性形質」が現れて、「雑種強勢」が働くくらい遠く離れた異品種のオシベの花粉を集めてメシベに付けてやる。こうして初期のF1品種は生まれました。しかし毎年同じF1種を生産して販売するためには、毎年同じ花のオシベをすべてのツボミから取り除かなければなりません。これでは人件費がかかって大変でした。除雄を最初に行ったのは日本人です。大正十三年埼玉県農事試験場で世界最初のF1野菜のナスが誕生しました。
◇自家不和合性
  アブラナ科野菜の「自家不和合性」という性質を利用して新たなF1品種のつくり方(2種類)を確立しました。菜の花のようにアブラナ科の野菜には面白い性質があります。自分の花粉でタネをつけることができず、他の株ではないとタネがつかないのです。自分の花粉を非常に嫌がる、近親相姦を嫌がる性質が働くのです。これを「自家不和合性」といいます。
◆自分の花粉を嫌がる自家不和合性の性質は、つぼみの時には働かず花が成熟してから働きます。人間はそれを逆手にとってつぼみの時につぼみをわざわざピンセットで開いて、すでに咲いている自分の成熟した花粉をつぼみにつけてやります~すると受粉してしまう。この作業をひとつのつぼみ全部に懇切丁寧におこなうとたった一株のクローンが何百何千粒とできます。自分のクローンだから花が咲き自分の兄弟分に花粉がかかってもタネはできません。つぼみを開いて小さな雌しべに花粉をかけることによってF1の片親を増やすやり方はものすごく根気と手間がかかり、日本人女性のような手先の器用なひとでないとできないお家芸の技術でした。
 開花した菜の花は、自分の花粉でタネを結ぶことができません。しかしまだ幼いつぼみの時は、この性質が働かないので胚が自分の花粉で受精します。これによって、雌しべの遺伝子も、雄しべの遺伝子も同じという、まるでクローンのような純系のタネが実ります。つぼみ受粉で実ったタネは、全部同じ遺伝子の同一個体同士ですから、畑にたくさんタネを蒔いても、集団全部に自家不和合性が働いてタネが実りません。しかし自家不和合性を発現した異なる品種を近くに植えておけば、異品種間のF1のタネがたくさん実ります。こうして日本の種苗メーカーは、販売用の一代雑種のタネを収穫してきました。しかし海外採種が多くなると、日本独自のガラパゴス技術といっていい自家不和合性利用技術によるF1採種は海外の採種業者に嫌われて、欧米の主流である雄性不稔利用技術に切り替える必要が出てきました。母親系統を自分の花粉では受精しない自家不和合性系統から、花粉そのものができない雄性不稔系統に変える必要性が生まれたのです。
◆現在これまでひとつひとつ行っていた受粉作業は現在二酸化炭素を使って行っています。ハウスにまいて花が咲く頃にハウスを密閉し、二酸化炭素をボンベから3~5%の高濃度になるまで入れます。そうすると菜の花の生理が狂って成熟した花が自分の花粉でタネをつけてしまいます。その際みつばちをに受粉作業をさせるそうです。
◇「雄性不稔」
  それを一変させたのが、日本でアブラナ科野菜のF1技術が生まれた頃、アメリカでは「雄性不稔」利用技術が誕生しました。その最初は、タマネギにおける「雄性不稔株」の発見でした。1929(昭和4)年、カリフォルニア州の農業試験場で、赤タマネギの中に、花粉が出ない異常な花を持つ個体が見つかったのです。研究の結果分かったのは、花粉を持たない雄性不稔株は、他の健康な株の花粉でタネが実るが、実ったタネは全て母親譲りの雄性不稔になるということでした。これは大発見でした。
  「雄性不稔」というのは、動物に当てはめると「男性不妊」つまり無精子症です。生殖器官である花の中に雄しべがなかったり、雄しべがあっても花粉の袋の葯(やく)がなかったり、葯があっても花粉が入っていなかったりする、花粉を持たない突然変異株を利用する技術です。最初から花粉がなければ、人間の手で雄しべを引き抜く等の面倒な作業や手間が省けコスト削減につながる企業利益を追求した産物でした。
  こうして最初に雄性不稔の技術で開発されたタマネギのタネが販売されたのは1944年のことでした。以後このたった一個の赤タマネギから見つかった雄性不稔因子はどんどん増殖され世界中の雄性不稔の母親株として受け継がれていきます。次にアメリカで発見された雄性不稔株はトウモロコシ、ニンジン、テンサイ、・・・現在日本で販売されているタマネギ、トウモロコシ、ニンジンはすべてアメリカ生まれの雄性不稔個体の子孫です。戦後日本ではネギ、そしてダイコンで見つかった雄性不稔因子はさまざまなアブラナ科野菜に取り込まれていきました。
  ただし順風満帆にみえる種苗メーカーの生産部門にとっては、薄氷を渡るような不安を抱えた技術だと聞いたことがあります。それはつぼみ受粉を繰り返して、ひたすら純系にされた植物は多様性を失うとともに、雑種強勢のアンチテーゼである自殖弱勢を起こしていて生命力が衰えており、死なずに芽生えるタネを何十年も維持するのがとても大変だという話でした。
  上記のように「雄性不稔」の技術の内容を見るだけでは、生産力・利益力につながる賞賛に値する技術革新に違いないのですが、諸刃の剣としてあくまでの子孫を残せない生命の根源であるミトコンドリア異常の作物であることに変わりはないのです。

 

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文献・資料:埼玉県の飯能市で固定種のみを取り扱う野口種苗研究所の野口勲氏の著書及びホームページ

 

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